― ―今夜は、月と共にお前を抱く
『十三夜』
「なんで、ここ?」
年下の恋人は、そんなことを口にしながらも、待ちきれないように任服の合わせ目に手を入れながら、私を押し倒す。
コンクリートが打ちっぱなされた床と、彼の分身であるソレ。
どちらが固いだろうか・・・ ・・・
そんなことを考えている私の今の顔は、いやらしいほどに、彼を誘っているのかもしれない。
「名月なんだろ? 今夜は。だから・・・ ・・・。んっ・・・ ・・・」
全て脱がすことすらもどかしいのか、顕になる肌に、次々と吸い付くような口づけをされる。
「ふぅん。月に、この綺麗な身体を見せたいのか? 明るいのは、嫌じゃなかったっけ?」
そんな意地悪な囁きに、彼の二の腕を抓った。そして、急かすように、彼のベストの端を持ち上げる。
シカマルはゆるゆると半身を起こすと、腕を交差させて、ベストの下のアンダーシャツの裾を掴み、引き上げた。
月明かりを背に、徐々に描かきだされる身体のラインは、まるで稜線のようだ。
意外に着やせするタイプなのだな・・・・ ・・
そう思わずにはいられないほど、たくましい体つき。
無駄なものが一切無い、鍛えられた身体は、芸術品のようにすら映る。
私は身を起こし、そのわき腹に口づけた。
びくりと収縮する筋肉。反応の良さに、悪戯心が湧き上がる。
彼の両手の自由が利かないことをいいことに、腰に手を添え、舌を滑らせた。
「おいっ・・・ ・・・。テマ・・っ」
胸の突起を優しく口に含み、舌先で転がしてみる。
即座に固くなったそれを甘噛みすると、シカマルの口から声が漏れた。
その響きに満足して、二の腕あたりまで脱ぎかけているアンダーシャツに手を掛け、共に引く。
髪を束ねていたゴムも一緒にはずれ、シャツが床に落ちると同時に、黒髪がばらけた。
肩にかかる長さの髪に包まれた端正な顔つき。
月光が生み出す微妙な陰影が、それを際立たせる。
「・・・ ・・・綺麗だな」
「ん? 月がか?」
唇を塞がれる。口内で生き物のように蠢く舌は、私に息をつく間さえ与えない。
「んっ・・・違う・・・ ・・・お前」
漸く開放された口を動かすと、
「何言ってんだよ」
首筋に舌を這わせているシカマルの、肩を押した。
床に流れる黒髪。
月明かりに白く輝る肌。
一瞬、女性を組み敷いたような奇妙な感覚が、私を高揚させる。
「テマリ?」
今夜は名月。供物を捧げ、月を愛でる日。
けれど、月の女神は多分、今、お前を愛でている。
天上から、一心に光を降り注ぎ、お前を映し出し、眺める為に。
女の私が見惚れるほど、上質の陶器のような肌、隆々とした胸元、腕。
そして今夜、女と見紛うようなその容姿で、荒々しく私を散らすのだろう。
その全てを彼女は映し出す。
お前に触れ、お前自身を五感で感じることが出来る私に、嫉妬さえしながら。
でもそれが、動くことの出来ない彼女の、精一杯の愛情。
そんな風に、月がお前に目を留めていることなど、気づいていないだろ?
私の所作で、悶え、震え、本能を顕にするお前を。
黒髪を乱し、眉を寄せ、少しばかり頬を紅潮させながら、
わずかに漏れる吐息が、彼女の耳にも届き、その輝きも増すだろう。
その神秘の光を、この里の人々は神々しく崇めるかもしれない。
けれど、それは彼女が興奮しているせいだ。
彼女が照らすのは、シカマル、ただ1人。
雄雄しくそそり立つお前自身を、深く飲み込む私に嫉妬し、
彼女の存在などには気づかず、私の名を呼ぶお前にさえ嫉妬し、
それでも、その瞳は逸らされることなく、やはりお前を愛でるだろう。
白濁が私の身体を染めるその瞬間まで、彼女は、ただじっと、そこでお前だけを見つめている。
その報われない愛に、私は、優越感とほんの少しの同情で、
供物の代わりに、お前を彼女に捧げようか・・・ ・・・
「好きにして、いいか?」
彼女が、私の心の内を見透かして、降りてきたのかもしれない。
挑発的にそんなことを口にすると、シカマルがぎゅっと私の手首を掴んだ。
― ―今夜は、月と共にお前を抱く
end
2007.9.16
修正2008.4.23
es-pressivo/Riku
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十五夜より美しいと謳われる十三夜を題材にしてみました。
(旧暦で9月13日なので実際は10月中旬。でもその日付に合わせたかったのに・・・泣)