夢から、醒めた。
甘ったるくて、痺れるような感覚が、いまだ肌と耳をくすぐる様だ。
自然と、そこにあるはずの存在を抱き寄せようとして伸びた腕は、空を切る。

彼女は、もういない。

惜しむように顔を埋めれば、鼻腔に広がる彼女の匂い。
肌を包む朧げな温もり。
それだけで、俺自身が奮い立ち、そして切なく、胸が締め付けられる。

テマリはいつも、俺の寝顔を見て、ここを出て行く。
そんな間抜けな状態よりも、起こしてくれればちょっとはマシな顔で、
見送ることが出来るのに・・・、そんな冗談交じりの抗議も、
彼女は一切取り合わない。

「いつもの、ことだろ?」

言い聞かせるように呟いた声に、反応する存在。

――起こしたか?

驚いて、身を起こした。
洗面所から感じる気配につい心が浮き立ったが、それも僅かな時間だった。
そこから覗いた顔は、もう、俺だけのものじゃない。

――まだ、朝は先だ。安心して休んでな。

無情にも、再び音を軋ませながら、ドアは閉まる。

安心して・・・なんて、あんたのいなくなるこの部屋で?
それに、朝が来ようが来まいが、関係ねぇだろ?
どっちにしても、あんたは行ってしまう。

戻した視線が捉えたのは、薄闇に鈍く光る砂隠れの額当て。
それを手にして居場所へと向かう。

「忘れ、もん」

しばらくして僅かに開いたドアの隙間から、腕を差し入れる。

――ああ、すまない

額当ての布地が逃げるように手のひらを滑る。その端をぎゅっと掴んだ。
思わぬ抵抗に、彼女は徐にドアを開ける。

――なんの、遊び?

口元は緩めているが、その瞳は明らかに俺を諌めていた。
逢瀬の時間は終わりだよ・・・そんな風に問いかけてくる。

ああ、きっと。

きっと今からすることに、彼女は不快感を顕にするだろう。
あれほど絡みついた指先は、棘となり、
甘く鳴いていた声は、乾いた響きで、俺を拒否するだろう。

それでも。

この腕に抱けば、彼女は俺に抗えないことを知っている。
薄氷を割り、そこに流れる水を熱することは、簡単なんだ。
簡単だからこそ、彼女は頑なで、
簡単だからこそ、今の俺はそこに付け入ろうとする。

そうして、別れの最後の一秒まで、あんた自身を感じていたいと思う俺は、
我侭な、男なんだろうか。

いつまでも手放したくないと思うのは、俺だけの、未練、なのか?

歪んだ頬に唇を寄せ、肌を覆う布地に手を掛けた。


2009.1.11

絵 夕子
文 りく

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最初に、このイラストを頂いた時に抱いたイメージは「嫉妬に狂うシカマル、
テマリさんを問い詰めて、ムフフ・・・」だったんですけれども、それを文にしながら、
何度となく眺めているうちに、違うイメージが浮かびました。
切なげなシカマルの視線と、瞳を伏せるテマリさんに、逢瀬の別れの時間を連想しまして。
どちらの表情も印象的で、たくさんストーリーは浮かぶんですけれど。
これはりくの個人的妄想ですが・・・テマリさんは、多分シカマルが寝ている間に、
部屋を出て行く気がします。それが彼女なりの別れの切なさを軽減する方法だと。
見送られるのは、1回でいいと思っている。一方のシカマルは、最後まで一緒にいたい。
だから、テマリさんの気持ちをなんとなく理解しながらも、つい強引に引き留めてしまう・・・、
のはどうだろうと思い、文にしてみました。

いつも素敵なイラストを送って下さる夕子さまに、心からの感謝を。
そして、シカテマラバーの皆さまにも、愛を込めて。

2009.1.12 espressivo-riku




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